相続問題を説明するイラスト。邸宅と電卓で相続を想起するシーン。

相続において、被相続人の意思が最も尊重されるべきです。しかし、時には特定の相続人に相続させたくないと感じる場合もあります。その際に活用できるのが「相続廃除」です。この記事では、相続廃除とは何か、その該当する要件、手続き、そして代襲との関係について詳しく解説します。

1. 相続廃除とは?

相続廃除とは、遺留分も持つ相続人から相続権を廃除する制度です。相続廃除が認められると、その権利が失われます。これは、相続人の行為や態度に重大な問題がある場合に適用される制度であり、被相続人が家庭裁判所に請求することで成立します。例えば、相続人からの虐待や著しい非行があった場合などに利用されます。

2. 相続廃除になる3つの要件とは

民法第892条(推定相続人の廃除)

遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

相続廃除を成立させるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

  1. 被相続人に対する虐待
    相続人が被相続人に対して継続的に虐待や暴力を行った場合、相続廃除の対象となります。身体的な暴力だけでなく、精神的な虐待も該当します。
  2. 重大な侮辱
    相続人が被相続人に対して極端な侮辱行為を行った場合、相続廃除が適用されることがあります。侮辱行為がどの程度深刻であったかにより、家庭裁判所が判断します。
  3. 著しい非行
    相続人が著しく道義に反する行為や不正行為を行った場合も、相続廃除の理由となります。これは、法的に許されない行為や、倫理的に重大な問題がある行為を指します。
相続廃除にあたる具体的な事例とは?

1.被相続人に対して虐待をした場合

  • 日常的に、殴る蹴る等の暴力によって怪我を負わせる等の身体的虐待があった
  • 習慣的に、威圧的な言動や、無視をする等の心理的虐待があった
  • 看護が必要な被相続人に対して、必要な看病や介護を一切せず、放置する等のネグレクトがあった

これらの行為が、理由なく一方的に行われていた場合、相続廃除が認められる可能性があります。

2.被相続人に対して重大な侮辱をした場合

  • 被相続人対して、日常的に「病気になって早く死ね」等の言動があった
  • 被相続人の悪口を周囲に言いふらしていた
  • SNSなどに、「被相続人は無能な人間だ」等の発言を繰り返していた

「重大な侮辱があった」と認められる必要があるためには、口論になった際に「死ね」等の暴言が日常的に反復して行われている必要があり、一度あっただけなど、軽度な状況では、廃除が認められる可能性は低くなります。

また、虐待同様、被相続人の行為が、理由なく一方的に行われていたかどうかも重要です。

3.著しい非行があった場合

  • 被相続人の財産を、推定相続人が無断で不当に処分した
  • 推定相続人の重大な犯罪行為により有罪判決を受けたことで、家族に多大な迷惑をかけた
  • 推定相続人が作った多額の借金返済を、被相続人に強要した

これらのような要件のいずれかの件が認められた場合に、被相続人は相続廃除を家庭裁判所に請求することができます。

3. 相続廃除するための2つの手続きを具体的に解説

1. 被相続人が生存中に自分自身で家庭裁判所へ請求する方法(民法892条)

相続廃除を実現するためには、被相続人が家庭裁判所に対して相続廃除の請求を行う必要があります。この請求が認められると、該当する相続人は相続権を失います。被相続人が生前に請求する場合もあれば、遺言書を通じて相続廃除を希望することも可能です。いずれの場合も、最終的な決定は家庭裁判所の判断に委ねられます。

具体的な廃除申し立ての流れ①
  1. 管轄家庭裁判所に対して推定相続人廃除の審判申立書を記入する。
  2. 申立書と必要書類<申立人(被相続人)の戸籍謄本(全部事項証明書)、申立人(被相続人)の戸籍謄本(全部事項証明書)、>を管轄家庭裁判所に提出する。
  3. 申立人と廃除対象者である相続人の間で、廃除理由についての主張や立証を行い、推定相続人廃除の審判確定される。
  4. 審判確定日から10日以内に被相続人の戸籍がある市町村役場に必要書類<推定相続人廃除届(市区町村役場で入手)、審判書の謄本、確定証明書(家庭裁判所で入手)、届出人の印鑑>をもって推定相続人の廃除の届出を行う。
  5. 相続廃除が完了し、相続廃除された相続人の戸籍の身分事項欄に、相続排除された旨が記載される。

2. 被相続人の遺言に基づき遺言執行者が家庭裁判所へ請求する方法(民法893条)

生前に家庭裁判所に申し立てをして審判が確定した場合、その旨が戸籍謄本に記載されてしまうリスク(暴力が以前よりも悪化するなど)があります。それを防ぐために、遺言書によって請求することができるとされています。

具体的な廃除申し立ての流れ②
  1. 信頼のおける人を遺言執行者に指定して、その人に事前に推定相続人廃除の申立てをしたいことを伝えておく。
  2. どのような理由(暴力・侮辱行為・虐待)で相続人廃除をしたいかも説明をしておく。
  3. 遺言書にも相続人廃除の理由を記載しておく。
  4. 被相続人が亡くなったあとに、遺言執行者が代わって必要書類<推定相続人廃除の審判申立書(家庭裁判所で入手)、被相続人の死亡が記載されたの戸籍謄本(全部事項証明書)、廃除したい相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)、遺言書の写しまたは検認調書謄本の写し>をもって家庭裁判所に申立てをする。
  5. 家庭裁判所で審判を行う申立人(遺言執行者)と廃除対象者である相続人の間で、廃除理由についての主張や立証を行い、裁判所が廃除を認めるかどうかの審判がなされて、廃除の審判が確定する。
  6. 確定日から10日以内に、被相続人の戸籍がある市町村役場に必要書類<推定相続人廃除届(市区町村役場で入手)、審判書の謄本と確定証明書(家庭裁判所で入手)、届出人の印鑑>を持って廃除の届出を行う。
  7. 相続廃除が完了し、相続廃除された相続人の戸籍の身分事項欄に、相続排除された旨が記載される。

4. 相続廃除と代襲相続との関係は?

相続廃除が成立すると、その相続人は財産を受け取る権利を失います。しかし、相続廃除が適用された相続人の子供がいる場合、その子供は代襲相続人として財産を受け取る権利があります。つまり、相続廃除が適用されても、その子供たちが相続権を持つことができるという代襲相続の仕組み上、間接的に相続廃除した相続人の元に財産が渡る可能性がある点には注意が必要です。

5. まとめ

相続廃除は、被相続人が特定の相続人に財産を相続させたくない場合に利用できる制度です。適用には虐待、侮辱、著しい非行のいずれかの重大な理由が必要です。また、相続廃除の手続きは生前、亡くなった後の2つの手続き方法があり、両方とも家庭裁判所を通じて行われ、審判がなされることになります。さらに、相続廃除が適用されても代襲相続の権利は残ることを理解しておく必要があります。

被相続人の意思を尊重し、相続廃除の制度を適切に利用することで、望まない相続を防ぐことができます。相続トラブルを避けるためにも、早めに行政書士、弁護士などの専門家に相談しましょう。