相続問題を説明するイラスト。邸宅と電卓で相続を想起するシーン。

遺産分割協議書は、相続人間で遺産をどのように分けるかを決定する重要な書類です。しかし、作成時に注意を怠ると、その効力が無効になることがあります。無効となるケースや、遺産分割協議書が取り消しの対象となる理由について詳しく解説します。遺産相続トラブルを防ぐためにも、ぜひご覧ください。

1. 遺産分割協議書が無効になるケースとは?

遺産分割協議書が無効になる原因は、法律で厳格に定められています。以下のケースでは、協議書が無効となりますので、注意が必要です。法律上当然に無効となるため、特別な意思表示をする必要がありません。当然に無効となり
ます。誰でも主張でき、期間制限もありません。

・相続人の一部が欠けていた場合

すべての法定相続人が遺産分割協議に参加しなければ、協議書は無効となります。

具体例:被相続人が父親であり、母親(配偶者)と子供二人が相続人となるケースを考えます。この場合、母親と二人の子供全員が協議に参加しなければなりません。もし子供の一人が協議に参加していなかった場合、その遺産分割協議書は無効となる可能性があります。例えば、母親と長男だけで協議を行い、次男が知らないまま協議書が作成された場合、後に次男が無効を主張することができます。ただし、方不明の相続人については、家庭裁判所が選任する不在者財産管理人を代わりに参加させれば、遺産分割を行うことができる場合があります(民法25条1項、28条)

・一部の相続人が意思能力を欠いていた場合

意思能力とは、自己の行動の結果を理解し判断できる能力のことです。高齢者や認知症の相続人が協議に参加し、意思能力が不足している場合、協議書は無効になります。

具体例:父親が亡くなり、母親と二人の子供が相続人となる状況です。もし母親が認知症を患っており、遺産分割協議の内容を理解できる意思能力がない場合、その協議書は無効となる可能性があります。このようなときに、有効に遺産分割を行うためには、意思能力を欠く相続人について後見開始の審判(民法7条)を申し立てたあと、選任された成年後見人を遺産分割協議に参加させなければなりません。

・特別代理人の選任を怠った場合

未成年者や行為能力に制限がある相続人がいる場合、その代理人を選任する必要があります。特別代理人を選任しないまま遺産分割協議書を作成した場合、その協議書は無効となります。

具体例:父親が亡くなり、母親と二人の子供が相続人ですが、二人の子供がいずれも未成年の場合、この場合、未成年者の代理人として特別代理人を選任する必要があります(民法826条1項)。もし母親と他の親族だけで協議を進め、特別代理人を選任せずに遺産分割協議書を作成した場合。これは、親と子は互いに遺産を取り合う関係(=利益相反関係)にあるためです。

・遺産分割の内容が公序良俗に反する場合

協議書の内容が公序良俗に反する場合、その協議書は無効とされます。公序良俗とは、社会的な秩序や倫理に反する行為や条件を指します。

具体例:違法な薬物の転売取引で得た利益や犯罪行為によって得た金銭、人権を侵害するような分割内容がある場合は、公序良俗に反して無効とされます。念のため内容を十分に確認することが重要です。

2. 遺産分割協議書が取消しの対象となる場合

遺産分割協議書は無効でなくても、特定の理由により取消しが可能な場合があります。以下のケースでは、協議書の取消しを主張することができます。
なお、取消しとは、いったん生じた法律行為の効力を、初めからなかったことにすることです。ただし、取り消すまでは有効であることに注意が必要です法律で決められた取消権者のみが主張でき、時効による期間制限もあります。

民法120条(取消権者)
行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
2 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。
 
民法126条(取消権の期間の制限)
取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。
行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

・重要な勘違い(誤解)に基づいて同意した場合

遺産の価値や内容について誤解したまま同意した場合、その同意は取消しの対象となります。

民法95条(錯誤)
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

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具体例:父親が亡くなり、遺産として父親の所有する不動産が含まれている場合、不動産の価値が低く見積もられていたため、母親がその不動産を単独で取得することに同意したとします。しかし、後にその不動産の価値が実際には非常に高かったことが判明した場合、子供たちは「その価値だから単独取得に同意した」と、あらかじめ、ほか相続人に動機を伝えてあることが必要です。この場合は同意の基礎となる事情に勘違いをしていたとして、協議書の取消しを求めることができます。その他、民法上では表意者(子供)に重大な過失がある場合に主張できなかったり、落ち度がなく事情を知らない第三者には主張できないという規定があるため問題が複雑化しやすいです。

・騙されて同意した場合

相続人が騙されて協議書に署名した場合、その協議書は取消しの対象となります。

民法96条
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

e-GOV 法令検索

具体例:父親が亡くなった後、母親と子供たちで協議を行う際、母親が「父親の遺志で、特定の財産を母親が全て相続することが望まれていた」と虚偽の説明をしたとします。それに基づいて子供たちが協議書に同意した場合、後に真実が判明すれば、子供たちは協議書の取消しを主張することができます。 なお、落ち度がなく、まったく事情を知らない第三者には主張できないという点は注意が必要です。

・脅されて同意した場合

相続人が脅されて協議書に署名した場合、その協議書は取消しの対象となります。

具体例:父親が亡くなった後、母親が遺産を全て自分が受け取る、それに同意しなければ危害を加えるなどと脅迫を行い、子供たちに同意を強制した場合、その協議書は取消しの対象となります。脅迫があった証拠を揃え、裁判所に取消しを申請することができます。

3. 遺産分割協議書を無効、取消しにする方法

遺産分割協議書が無効または取消しの対象となる場合、どのように手続きを進めればよいのでしょうか?以下に具体的な方法を紹介します。

・再度の遺産分割協議の実施

再度遺産分割協議を行い、新たな協議書を作成する必要があります。再協議の際は、前回の問題点を十分に考慮し、全相続人が実施に同意かつ納得する内容にすることが重要です。また、法律専門家の立ち会いをお願いし、再度のトラブルを未然に防ぐことが望ましいです。

・遺産分割調停の申し立て

相続人間で協議がまとまらないときは、家庭裁判所への申し立てをすることができます。調停委員が各人の意見を平等に聴取し、和解を目指すことになります。

・遺産分割の無効確認請求訴訟

遺産分割調停が不成立になった場合は、裁判所に遺産分割の無効確認請求訴訟を提起することができます。取消氏を求めるときも同様です。

まとめ

遺産分割協議書の作成において、無効や取消しのリスクを回避するためには、相続人全員の参加、意思能力の確認、公正な内容の確保が必要ということがわかりました。特に、未成年者や意思能力に問題がある相続人が含まれる場合は、手続きが複雑化していくことが多いので、はやめに行政書士などの専門家のサポートを受けることが重要です。まずは、こんかいお伝えした予防策を徹底することで、問題が起きないようにすることが第一に大切です。しかし、いざ問題が発生してしまった、そんな場合には、弁護士に相談し、適切な手続きを取ることで、相続トラブルを最小限に抑えることができます。