相続問題を説明するイラスト。邸宅と電卓で相続を想起するシーン。

相続が始まると、まず行うべき重要のステップの一つが相続人の調査です。正確な相続人を確定しないと、遺産分割や相続税の申告が円滑に進まないだけでなく、のちのちの相続トラブルのリスクが高まります。この記事では、なぜ相続人調査が重要なのか、どのように行うべきか、具体的な手順と注意点について詳しく解説します。さらに、相続関係説明図の作成方法とその重要性についても取り上げ、相続手続きをスムーズに進めるためのポイントをお伝えします。

1. 相続人調査が重要な理由とは?

相続人調査は、遺産分割協議や相続手続きを正確に行うために欠かせないステップです。まず、「相続人が誰であるかを確定」しなければ、遺産分割協議や遺留分の権利行使が行えません。遺産分割協議は相続人全員で行う必要がありますが、一人でも欠けていると無効です。また、相続税の申告においても、全ての相続人が確定していないと適切な申告ができないことがあります。

特に、被相続人(亡くなった方)が再婚している場合や、認知した子供がいる場合など、相続人の範囲が複雑化することがあります。このようなケースでは、「なんとなく」の範囲で、知っている情報だけで進めて、相続人調査をしないために、大きなトラブルが発生する可能性があるため、初期段階での正確な調査が非常に重要になってきます。

2. 相続人調査の具体的な方法

相続人調査では、戸籍謄本除籍謄本改製原戸籍の三つの書類が登場します。これらの書類を収集・確認することで、被相続人の家族構成を明確にし、漏れなく全ての相続人を特定していきます。

2-1. 戸籍謄本の取得と確認

戸籍謄本は、在籍している人(被相続人や配偶者や子供などその戸籍に入っている人)全員の名前や生年月日、身分関係等が記載されています。ここから、現在の家族構成を確認します。
※似たものに戸籍抄本というものがありますが、これは特定の人の情報だけが記載されたものをいいます。
※電子化された戸籍謄本を「全部事項証明書」、戸籍抄本を「個人事項証明書」といいます。

2-2. 除籍謄本で過去の家族構成を把握

除籍謄本は、死亡、婚姻や養子縁組などの転籍により、戸籍から全員がいなくなって、空っぽになった戸籍の記録のことです。つまり、除籍となった人の情報は除籍簿に記載され、この書類を確認することで、過去に属していた家族や、すでに亡くなった家族の情報を把握できるます。除籍簿の内容は除籍謄本によって証明されるのです。 被相続人の現在の戸籍だけだと、相続人全員の情報がわからないため、除籍謄本を取得するケースが多いのです。

2-3. 改製原戸籍で正確に

改製原戸籍は、戸籍法という法律が改正されると、新様式の戸籍に変更されますが、この改正前の状態の戸籍を改製原戸籍といいます。つまり、改正後の戸籍には過去の情報(死亡や除籍)が記載されていません。このようなタイミングでの相続人調査では、被相続人の離婚歴や、相続人である子供の情報が無い場合があるため、改製原戸籍確認する必要が高いわけです。

※別の記事で戸籍謄本の読み解き方を紹介する予定です。

3. 相続人の調査漏れを防ぐ方法

相続人調査の際に調査漏れを防ぐためには、必要な戸籍を適切な順番で集めることが重要です。「被相続人の一生涯を確認する作業」として、以下に調査時に収集すべき戸籍とその順番を紹介します。

3-1. 調査に必要な戸籍の種類と順序

  1. 現在の戸籍謄本: 最初に被相続人と相続人全員の最新の戸籍謄本を取得し、直系の相続人を確認します。配偶者は当然ですが、相続人の第一順位である子供の有無と人数を確定させる必要があるからです。
  2. 過去の戸籍謄本や除籍謄本: 被相続人が転籍している場合、その過去の戸籍を取得し、遡っていき、出生まで確認します。前婚の配偶者や子供の存在を確認します。子が亡くなっている場合は、代襲相続が必要となることを発見したり、、、。
  3. 改製原戸籍: 法改正のタイミングにより、改製原戸籍を取得し、過去の家族構成を完全に把握します。

このように被相続人と法定相続人の戸籍を集めていき、正確な法定相続人を確定するまで実施することことがこの調査のゴールであり、重要なのです。
しかしながら、、、これが個人で実施すると意外にたいへんな作業だということが何となくわかってきました。

4. 相続関係説明図の作成とその重要性

相続人の調査が完了したら、次に相続関係説明図を作成することが重要です。この図は、相続人の関係を視覚的に示すもので、遺産分割協議や相続手続きを進める際に非常に便利です。※法的には義務ではなく、任意であり公的な書類ではありません。

4-1. 相続関係説明図の作成手順

  1. 相続人の情報を整理: 取得した戸籍情報を基に、相続人全員の関係を整理します。
  2. 相続関係を図にする: 相続人の関係を図式化し、誰が相続人であるかを一目で確認できるようにします。
    ※別の記事で相続関連説明図の具体例を紹介する予定です。

4-2. 相続関係説明図が役立つ場面

相続関係説明図は、主に以下の場面で役立ちます。

  • 遺産分割協議: 相続人全員が参加する遺産分割協議の際、相続関係説明図を用いることで、相続権の有無や割合を視覚的に把握でき、スムーズに分割を進めることができます。
  • 相続登記での戸籍謄本の原本還付: 通常は、法務局に提出した戸籍謄本の原本は返却してもらえません。ここで、戸籍謄本の原本と併せて相続関係説明図を提出した場合のみ、提出した戸籍謄本の原本を返却してもらうことができます。※他の手続きに取り掛かることができる
  • 金融機関での手続き: 銀行などで被相続人の口座を解約したり払戻しをする際、相続関係説明図が求められることがあります。
  • 遺産分割調停の申立て:家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる場合に必要となります。

※もっと効率的に手続きしたい方には、法務局に申請する「法定相続情報一覧図」の作成をおススメします。こちらの記事をご覧ください。

5. まとめ

相続が開始した際、まず行うべきは相続人の調査です。この調査を正確に行うことで、遺産分割や相続税の申告がスムーズに進むだけでなく、相続トラブルを未然に防ぐことができます。戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍をもれなく調査し、相続人を確定した上で、相続関係説明図を作成することが重要です。これにより、相続手続きを確実に進めることができ、後のトラブルを避けることができます。

相続人調査は専門知識が求められるため、難しいと感じた場合は、行政書士などの専門家にはやめに相談することをお勧めします。正確な相続手続きを行うためには、早めの準備と正確な情報収集が鍵となります。