遺産相続における「法定相続」と「遺贈」は、何となく同じかな?とかどこが違うのかな?といまいちわからないところがありますね。実は、このふたつ、財産の分け方や受け取る相手に大きな違いがあります。この記事ではそんな素朴な疑問を詳しく解説していきます。
遺贈(いぞう)とは?
遺贈は、「遺言によって、財産の割合を指定して、特定の誰かに財産を引き継がせること」です。遺贈の対象者は法定相続人に限らず、友人や第三者、法人や団体などにも財産を引き継がせることができます。
例えば、法定相続人が配偶者と子供の場合では、そのままでは財産を渡すことができません。そんなときに遺言によって「孫に〇〇銀行の預金を遺贈する」と書いておくことで実現することができるのです。
これは、これから遺言書を書こう!という際に覚えておきたい知識のひとつですよね。
その他にも、「この友人には介護の際に本当に世話になったな。なんなら家族以上に一生懸命に世話してくれた」このようなときも「遺贈する」と書いておくことで財産を引き継がせることができるわけです。
※遺言書が適切に作成され、法律に違反しない限り、遺贈はそのまま実行されます。
注意事項
法定相続人以外の人に遺贈したいときに、「A友人に〇〇銀行の預金を相続させる」とすると無効になってしましいます。遺言書に書く文字は慎重に選ぶ必要がありますね。
遺贈 | 法定相続 | |
内容 | 遺言書で受遺者を指定して 財産を渡すこと。 | 法律に規定された親族に 財産を渡すこと。 |
財産を受け取る人 | 誰でもOK | 法定相続人 |
税金の種類 | 相続税 | 相続税 |
遺贈の種類|特定遺贈と包括遺贈の違い
民法第964条「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる」
どうちがうのにゃ?
特定遺贈とは
「特定遺贈」とは、遺贈する財産を金額や項目として、具体的に指定する方法をいいます。
遺言書の中で「A銀行の預金を友人Bに」とか「C証券の有価証券をD団体に」といった具体的な指定です。
包括遺贈とは
「包括遺贈」とは、財産の例えば割合のみを指定する方法です。
遺言書の中で、例えば「全財産を友人のBさんへ」、「私の資産を株式会社DとEに2分の1ずつ」、「全資産の30%をFさんに、残りをGさんに」というような表現にすると包括遺贈となります。
包括遺贈を受け取る人(受遺者)は、相続人と同一の権利と義務を持つので、負債などマイナスの資産も引き継がれることになります。そして、割合だけが指定されて、具体的な内容が決まっていません。受遺者は法定相続人と一緒に遺産分割協議に参加して、具体的に(何を、どれだけ)引き継ぐかを決める必要があります。
法定相続と遺贈の違いとは?
法定相続と遺贈には、いくつかの重要な違いがあります。主な相違点について解説します。
1. 財産を受け取る相手の違い
法定相続では、民法で定められた相続人が自動的に財産を受け取ります。相続人の順位や割合は法律に基づいて決まるため、被相続人の意志とは異なる結果になることもあります。
一方、遺贈では、被相続人が遺言書で指定した相手が財産を受け取ります。上記に解説したとおり、受贈者は法定相続人に限らず、友人や知人、法人、そして慈善団体なども対象となります。このため、遺贈は被相続人の意思を忠実に反映させる手段としてとても大切です。
参考資料 相続人の範囲と法定相続分(国税庁)
2. 不動産相続の違い
不動産相続において、大きな違いがあります。相続におよる承継は事務負担や税負担が軽くなりますが、遺贈は事務負担と税負担が重くなるという逆の性質があります。
事務負担について
相続で不動産を取得した場合は、相続人に所有権を移転させる必要がありますね?手続きは法務局に申請して、その手続きは相続人が単独ですることができます。
しかし、遺贈の場合はどうでしょうか。①登記申請には法定相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書が必要になります。全員の分を集める。。。法定相続人が認める受遺者であれば円滑に書類が集めらそうですが、一人でも不満をもつ相続人がいると、なかなか協力を得られないと予想できてしまいますね。
なお、遺言執行者がいれば、受遺者と遺言執行者だけで登記申請ができます。また、受遺者が遺言執行者になれば単独手続きすることができますので、もし、遺言書の実現に不安があるときは、遺言書でその受遺者を遺言執行者に指定しましょう。
登録免許税について
不動産の新たな所有者になったら、その所有者に登録免許税が課税されます。
計算方法:
・遺贈の場合は「固定資産評価額×税率2%」
・相続の場合は「固定資産税評価額×税率0.4%」
例えば、固定資産評価額2,000万円の不動産の場合、遺贈なら40万円。相続なら8万円です。だいぶ違いますね!しかも、登録免許税は現金一括納付が原則なので受遺者の負担も考慮しておきたいところです。
不動産取得税について
相続以外で不動産を取得した場合は、不動産取得税が課税されますが、相続で取得した場合は課税されません。
※特定遺贈の場合は課税されることに要注意。
・遺贈の場合は「定資産税評価額×税率3%」
・相続の場合は「課税されません」
例えば固定資産評価額が2,000万円の場合、遺贈なら60万円が課税されます。
包括遺贈に課税されない理由:包括遺贈は、その受遺者が遺産分割協議への参加が必要になるなど、法定相続人と同じような地位にあるとされていためです。
まとめ
このように、法定相続と遺贈には様々な違いがあることがわかりました。とくに遺贈の方法についてはこの記事の内容をしっかり理解したうえで、そのメリットとデメリットを想定しておくことが必要です。遺言書を書く被相続人、そしてその思いを財産という形で受け継ぐ人。それぞれの立場や影響を想定しておくこと。まずは被相続人がどうしたいのか?を明確にしておくことが第一に必要な作業です。
相続や遺贈に関するご相談は、専門家である行政書士に依頼することで、このような課題に、最適な相続対策を講じることが可能です。しっかりとした準備を行い、トラブルのない相続を目指しましょう。