自筆証書遺言は、遺産相続において最も手軽に作成できる遺言書の形式ですが、正しい方法で作成しなければ無効になるリスクがあります。本記事では、自筆証書遺言の無効にならないための書き方を詳しく解説し、さらに公正証書遺言と秘密証書遺言についてもそれぞれのメリット・デメリットを比較します。遺言書を作成する際に最も重要なポイントを押さえ、あなたの意思を確実に遺産相続に反映させましょう。
遺言書の種類とその特徴
遺言書には、主に「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の三種類があります。それぞれの特徴を理解し、どの形式が最適かを検討することが重要です。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、自分(遺言者)が遺言の全文、日付、氏名を自分で手書きして押印をする遺言書です。遺言書の本文はパソコンや代筆で作成できませんが、民法改正によって、平成31年(2019年)1月13日以降、財産目録をパソコンや代筆でも作成できるようになりました。なお、財産目録は、預貯金通帳の写しや不動産(土地・建物)の登記事項証明書などの資料を添付する方法で作成できますが、その場合には、全てのページに署名と押印が必要になります。
メリット
- 作成に費用がかからず、いつでも手軽に書き直せる。
- 遺言の内容を自分以外に秘密にすることができる。
デメリット
- 一定の要件を満たしていないと、遺言が無効になるおそれがある。
- 遺言書が紛失したり、忘れ去られたりするおそれがある。
- 遺言書が勝手に書き換えられたり、捨てられたり、隠されたりするおそれがある。
- 遺言者の死亡後、遺言書の保管者や相続人が家庭裁判所に遺言書を提出して、検認の手続が必要になる。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公正役場で証人2人以上の立会いの下、遺言者が遺言の趣旨を公証人に述べて、公証人の筆記により作成してもらう遺言書です。遺言書の原本は、公証役場で保管されます。
メリット
- 法律知識がなくても、公証人という法律の専門家が遺言書作成を手がけてくれるので、遺言書が無効になる可能性が低い。
- 勝手に書き換えられたり、捨てられたり、隠されたりするおそれがない。
- 家庭裁判所での検認の手続が不要。
デメリット
- 証人2人が必要。
- 費用や手間がかかる(遺言書の作成費用は、目的の価額に応じて設定されます)。
- 公正証書遺言にかかる費用はこちらで確認してください。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者が作成した遺言書を封印し、公証人および証人2名の前でその存在を確認してもらう形式の遺言書です。内容は秘密にされるため、遺言者のプライバシーが保たれます。
メリット
- 内容が秘密にされるため、他人に知られることがない。
- 秘密証書遺言は氏名が自筆であれば、それ以外はパソコンなどで作成することができる。
デメリット
- 公証人はその存在のみ証明し、内容を確認しないため、法的要件を満たさない場合は無効になる可能性がある。
- 保管場所による紛失のリスクがある。
- 家庭裁判所の検認が必要になる。
自筆証書遺言書の要件
自筆証書遺言が無効とならないためには、民法に定められた要件を正確に守ることが求められます。以下に、自筆証書遺言を有効にするための主要な要件を説明します。
遺言書の全文、日付、氏名の自書と押印
- 遺言者本人が、遺言書の本文の全てを自書する。
- 日付は、遺言書を作成した年月日を具体的に記載する。
- 遺言者が署名する(自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、住民票の記載どおりに署名する)。
- 押印は認印でも問題ありません。
自書によらない財産目録を添付する場合
- 財産目録は、パソコンで作成した目録や預金通帳や登記事項証明書等のコピーなどを添付する方法でも作成可能です。その場合は各ページに自書による署名と押印が必要です(両面コピーなどの場合は両面に署名・押印が必要です)。
- 自書によらない財産目録は、本文が記載された用紙とは別の用紙で作成する。
書き間違った場合の変更・追加
- 遺言書を変更する場合には、従前の記載に二重線を引き、訂正のための押印が必要です。また、適宜の場所に変更場所の指示、変更した旨、署名が必要です。
自筆証書遺言書保管制度の活用
自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言の紛失や改ざんのリスクを軽減するために法務局が提供する制度です。この制度を活用することで、遺言書の保管と相続手続きを円滑に進めることが可能となります。
制度の利用方法
- 法務局での申請: 遺言者が法務局に出向き、本人確認を行ったうえで保管申請を行います。申請には、遺言書自体を持参する必要があります。
- 遺言書の提出: 専用の封筒に入れて法務局に提出し、法務局で保管されます。遺言書の内容は法務局職員に開示されることはありません。
- 保管証の交付: 遺言書が正式に保管された後、法務局から保管証が発行されます。これにより、遺言書が法的に保護されていることが確認できます。
制度利用のメリット
- 適切な保管によって紛失や盗難、偽造や改ざんを防げる
法務局で、遺言書の原本と、その画像データが保管されるため、紛失や盗難のおそれがありません。また、法務局で保管するため、偽造や改ざんのおそれもありません。それにより、遺言者の生前の意思が守られます。 - 無効な遺言書になりにくい
民法が定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて法務局職員が確認します。遺言書の形式に不備があった場合、補正をするよう助言されます。法務局に保管する際に内容についてはチェックされませんが、少なくとも形式不備によって遺言書が無効になる可能性は低くなります。 - 家庭裁判所の検認手続が不要
法務局に保管されている遺言書は、遺言者の死亡後に遺言書を執行する際、家庭裁判所での検認手続が不要です。検認手続は、家庭裁判所で相続人全員に対して遺言書の存在と内容を確認する手続ですが、法務局に保管されている遺言書については不要になります。
制度利用のデメリット
- 法務局への出頭が必要
遺言者が法務局に出頭する必要があり、手間がかかります。法務局が開いている平日の日中に時間を確保しなければならない点に注意が必要です。 - 保管申請に手数料がかかる
遺言書の保管を申請するには手数料がかかります(令和2年(2020年)8月現在3,900円)。
自筆証書遺言書保管制度の利用フロー図
まとめ
自筆証書遺言は簡単に作成できる反面、無効になるリスクがあるため、細心の注意が必要です。遺言書の内容や財産の状況に応じて、公正証書遺言や秘密証書遺言など他の形式も検討し、適切な方法で遺言書を作成しましょう。また、法務局の自筆証書遺言保管制度を利用することで、遺言書の保管リスクを軽減し、確実に遺言内容を反映させることが可能です。自身の意思を確実に反映できるよう、正しい遺言書作成に取り組みましょう。