相続問題を説明するイラスト。邸宅と電卓で相続を想起するシーン。

相続手続きは、相続人にとって重要な判断を迫られる場面が多くあります。その中でも「単純承認」は、相続放棄や限定承認と並ぶ主要な選択肢の一つです。本記事では、単純承認がどのような場合に成立するのか、具体例を交えながら詳しく解説し、そのメリットとデメリットを探ります。

単純承認とは?

単純承認とは、亡くなった方の全ての財産と負債を無条件に相続することを指します。相続放棄や限定承認とは異なり、単純承認が成立すると、相続人は財産だけでなく、負債についても全責任を負うことになります。これにより、相続人は亡くなった方のすべての債務を含む資産を受け継ぎます。

単純承認が成立するケース

単純承認が成立するのは、以下のような状況です。

  1. 相続の意思表示がない場合
    相続人が相続の意思表示を行わないまま、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に相続放棄や限定承認を行わなければ、単純承認が成立します。この期間を過ぎると、相続放棄や限定承認ができなくなり、全ての財産と負債を引き継ぐことになります(民法第921条)。したがって、相続人はこの期限内に適切な手続きを行う必要があります。
  2. 相続財産の処分を行った場合
    相続人が亡くなった方の財産を処分、使用、譲渡などすると、それが単純承認とみなされます。以下は、具体的な例です。
    • 亡くなった方の預貯金を引き出す
    • 名義の口座を解約する
    • 所有していた不動産を売却する
    • 自動車を売却する
    • 保有していた株式や投資信託を売却する
    • 貴金属や宝石を売却する
    • 死亡保険金を受け取る場合
      ただし、受取人が特定の遺族として指定されている場合、死亡保険金は相続財産には含まれないため、この行為が単純承認に該当することはありません。受取人として遺族が指定されている場合、この保険金を受け取っても、他の相続財産に関しては相続放棄や限定承認を選択することが可能です。しかし、被相続人が保険金を受け取る契約になっていた場合、この保険金は相続財産の一部として取り扱われるため、相続財産を処分する行為と見なされる可能性があります。その際は、専門家に相談することをお勧めします。
    • 借家契約を解約する
    • 家財道具や家具を処分する
    • 借金を返済するために資産を使用する
  3. 遺産分割協議に参加した場合
    相続人が遺産分割協議に参加し、相続財産の分配について合意した場合も、単純承認が成立します。遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続きですが、この協議に参加して財産分割に同意すると、その時点で財産を受け入れたと見なされるため、相続放棄や限定承認ができなくなります。

単純承認のメリット

単純承認には以下のようなメリットがあります。

  1. 相続手続きが簡便である
    単純承認を選択することで、相続手続きがスムーズに進行します。相続放棄や限定承認に比べ、特別な手続きが不要で、迅速に遺産の分割や処分が可能です。
  2. 財産の利用が可能になる
    単純承認が成立すると、相続財産を自由に処分したり使用したりできるようになります。不動産や預貯金をすぐに活用できるため、生活費や事業資金として利用する場合には大きなメリットです。
  3. 手続きの費用が抑えられる
    相続放棄や限定承認には、家庭裁判所への申立てが必要で、その際に費用がかかります。単純承認を選択することで、これらの費用を節約することが可能です。

単純承認のデメリット

一方で、単純承認には以下のデメリットも存在します。

  1. 負債の引き継ぎリスクがある
    亡くなった方が多額の借金を抱えていた場合、その負債も全て相続することになります。借金が相続財産を上回る場合、相続人自身がその支払いを負担することになり、経済的負担が大きくなります。
  2. 後から相続放棄ができない
    一度単純承認が成立すると、その後に負債の存在が判明しても、相続放棄をすることはできません。そのため、財産と負債の状況を十分に把握せずに単純承認を選択すると、後悔する可能性があります。
  3. 他の相続人とのトラブルリスク
    単純承認により財産を処分する際、他の相続人との間でトラブルが発生する可能性があります。特に、遺産分割協議を経ずに財産を処分した場合、他の相続人が不満を持つことがあり、遺産分割に関する争いが生じることもあります。

単純承認を選択する際の注意点

単純承認を選択する際には、以下の点に注意が必要です。

  1. 相続財産の調査を徹底する
    単純承認を選択する前に、財産と負債の全容を把握することが重要です。特に、隠れた負債がある場合には、そのリスクを十分に考慮する必要があります。
  2. 期限内に手続きを行う
    単純承認が自動的に成立する前に、相続放棄や限定承認を検討することが求められます。相続開始から3ヶ月以内に判断を下し、必要な手続きを行うことで、不要なリスクを回避できます。
  3. 専門家のアドバイスを受ける
    相続に関する判断は非常に重要で複雑です。迷った場合や不安がある場合には、行政書士や弁護士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。専門家のサポートを受けることで、最適な選択ができるでしょう。

まとめ

単純承認は、相続において重要な選択肢の一つです。その成立条件やメリット・デメリットを理解し、慎重に判断することが求められます。相続財産や負債の状況をしっかりと確認し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら、後悔のない相続手続きを進めてください。